2016年12月2日金曜日

はけの新時代シンポジウム( 報告)

レポート:安田桂子(はけ文共同代表)

11/25 東京経済大学でシンポジウム「崖線(はけ)の新時代 国分寺崖線の継承とこれからの地域連携」が開催され ました。このシンポジウムは、NPO法人グリーンネックレスを母体とした「はけの学校」がプロデュースしています。「はけ」を後世に伝えるため、書籍や写真などの資料を集めた「はけのライブラリー」を国分寺崖線に設置していく計画をすすめています。今回のシンポジウムは「はけとは何か」を改めて問い直し、はけを通して地域連携を促す目的で企画されました。

シンポジウム会場の「大倉喜八郎進一層館 フォワードホール」は、元図書館を改装したもので、はけにせり出した貴重な建物です。透明感のある内部は、ガラスを通してはけの緑を身近に感じられる作りになっています。

私は当日の配布資料リーフレットのデザインと、はけの概略図の作成を担当しました。当日は「はけって何?」 というテーマで10分ほどお話させていただきました。

「はけって何?」ムジナ坂にある旧富永邸と
大岡昇平さんの関係についてご紹介。
 各分野からの豪華な顔ぶれの登壇者の中でトップバッター。とても緊張しましたが、前座のようなものと開き直って臨みました。24日朝日新聞朝刊に崖線歩きの記事とともにシンポジウムの告知が掲載されたためか、約250席の会場は満席。うれしい驚きでした。
はけとは何か説明して、と言われても、私は地形にも歴史にも詳しくありません。「自分の実感を話してください」との依頼だったので、日常生活の中のはけをみなさんにご紹介することにしました。自宅のまわりをご案内するよう な気持ちで、撮影したはけの写真をスライドでお見せしました。話しながら「ほんとにいいところに住んでいるな~」 と、思わず気持ちが入ってしまいました。聞いてくださったみなさんに少しでも実感が伝わっていれば良いなと思い ます。最後に「都市計画道路ではけがどうなるのか心配です」と締めくくりました。
武蔵野公園はらっぱから望むはけの風景
リーフレットの裏面に掲載した国分寺崖線の概略図

続いてのチャプター2は、この日が初対面という貴重な対談。深大寺第八十八世住職・張堂完俊さんと、前国分寺市長で武蔵国分寺がご実家という星野信夫さん。主にはけの保全についてのお話でした。住職ははけの土地を少しずつ買い取って保全されているそうです。星野さんは市長時代に直面した開発についての問題点などお話されました。おふたりからははけを大切にする思いが伝わってきて、終止うなずきながら聞いていました。


休憩をはさみ、チャプター3はディスカッションです。東経大准教授の尾崎寛直先生をコーディネーターに、多彩な顔ぶれのみなさんがそれぞれの視点で「はけ」を語りました。
国分寺地下水の会の藤木千草さん、小金井市環境市民会議代表の瀧本広子さんは、市民として環境調査などを長期に渡って継続している活動を紹介。東京都環境局の藤田樹生さんは、里山保全や PR 活動について、また、小金井市下水道課の徳永直秀さんは世界に誇れる雨水浸透ますの設置率のヒミツについてなど、行政の立場からのお話もありました。考古学者でICU講師の林徹さんは、地層についてや、生活の場としての人間と崖線の関わりについて、長期的視点で語ってくださいました。NPO法人グリーンネックレス代表理事の土肥英生さんからは、建築の観点から地域に根ざし環境に配慮したまちづくりについてなど、興味深いお話を聞くことが出来ました。


そして、このようなシンポジウムで開発側からの参加はとても珍しいと思うのですが、今回は野村不動産の東伸明さんがデベロッパーとしての立場でお話をしてくださいました。はけのマンション開発を、地域住民と信頼関係を築き ながら実現させたことを紹介。「本質的に価値があるものなら、ビジネスとしても価値を生み出せるはず。地域の価値を目に見えるようにするのは市民のみなさんの役割」というお話が印象的でした。
会場のみなさんから受けた質問に答えるコーナーもあり、尾崎先生は質問のレベルの高さに驚きつつ、登壇者へ投げかけ、それぞれの分野からの回答を聞くことが出来たのは、多彩なパネラーが揃うシンポジウムならではでした。
総合司会進行は会社員ながら国分寺地域で精力的な活動をされている高浜洋平さん。大変な役回りですが最後までうまく場をまとめてくださいました。
大学、市民、行政、企業という様々な立場の人々が集い、「はけ」を考える貴重な機会となった今回のシンポジウム。このような場に関わらせていただき、とてもよい経験となりました。参加者同士のつながりから、今後「はけ」を介した地域連携が進むことを大いに期待しています。

翌日の11月26日の朝日新聞むさしの版に掲載されました。