毎年開催して今年で4年目のはけ文講座、今年はコロナ禍で開催できるか不安でしたが、小平市在住で動植物の生態系について長年研究されている高槻成紀先生との出会いから、とても素晴らしい講座を開催することができました。リアルの参加者は少なめに、オンラインと両方で受講していただきました。講師の高槻先生、ありがとうございました。
講座のレポートを2回に分けて掲載します。レポートしてくれるのは、はけ文会員の鈴木綾さんです。
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2020年11月22日(日)14〜16時
会場 小金井市公民館貫井北分館学習室AB
講師 高槻成紀先生(麻布大学いのちの博物館名誉学芸員・玉川上水花マップネットワーク代表)
司会・安田桂子、オンライン配信担当・佐野哲也
主催・はけの自然と文化をまもる会
協力・小金井玉川上水の自然を守る会(こだまの会)
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「都市の自然を考える 第一回・ 花マップの調査から分かる玉川上水」報告
第1回目の講座は、玉川上水の歴史を紐解くところから始まりました。
1653年、江戸の人口急増に応じて生活用水を確保する為、幕府により玉川上水は作られました。西は羽村から東は四谷大木戸まで長さ43km。
当時、小金井の玉川上水沿いで花見を楽しむ人々の様子を、歌川広重が「武州小金井堤満花之図」の中に描いています。これを見ると、桜の木の周りは下刈りされ、上木の無い所に生えるススキ群落が背後に広がっているのが分かると高槻先生は指摘されます。時代は降って1965年、東京オリンピックが開催され、東京が大きく変わった年。開発優先の高度成長期の中、玉川上水の小平以東は停止され、水の絶えた「空堀」に。また杉並区の浅間橋より下流は暗渠化され、玉川上水の長さは30kmになりました。
空堀には生活ゴミや粗大ゴミが投げ入れられ、ひどい様子だったそうです。
しかし公害など環境問題が深刻化した1970年代、自然保護意識が高まった市民の動きを受け、東京都は玉川上水の「清流復活」を決断。水流は甦り、現在に至ります。
玉川上水全体が暗渠化されてもおかしくない時代の中、都が市民の声に耳を傾け、玉川上水とその雑木林を残した事は注目に値すると高槻先生はおっしゃっていました。
このように360年以上に亘る玉川上水の歴史をなぞる事で、その在り方は「常に人により変化させられる」都市緑地の宿命を負っているのだと言う事が分かります。
次に、どのような植物が玉川上水の生態系を形作っているのかをお話して頂きました。
東京オリンピック以降、急激に無くなった雑木林の野草が、玉川上水をレヒュージア(避難所)として逃げ込み何とか生き延びていると高槻先生はおっしゃいます。
上木の無い所にはススキ群落がある一方で、直射日光の当たらない林の下に生きる野草(ニリンソウ、チゴユリ、カタクリ、キクザキイチゲ)がある。この異質性が玉川上水の多様性を生み出しているとのこと。
つまり、上木の在り方が地表植物に大きな影響を与えており、全てを桜偏重の管理にしたら武蔵野の野草は死に絶えます。
桜だけを守る姿勢は、生物多様性保全とは相容れない事をしっかり自覚した上で、玉川上水全体のビジョンを描く事が大切だと高槻先生はおっしゃっていました。
美しい玉川上水の緑地帯。 |
今年2020年の春に、小金井の玉川上水を訪れた高槻先生は大変心を痛められたそうです。
桜並木を優先する為に樹齢70年ものケヤキが何本も切られてしまっていたのです。
御自身と同じ月日を生きた木々が、電柱や廃屋を壊すのと同列の感覚で切られてしまっているのは、とてもショックだったとの事。
またつい先日、小平市でも玉川上水の多くの木々が伐採される計画がありました。法面の崩壊防止と住民の安全を守るためというのが伐採の目的とのことでしたが、明らかに剪定だけで済む木や伐採の必要の無い木にまでテープの印が付けられていたそうです。
高槻先生は立ち会いをしながら、「これはクヌギだから残しましょう」等理由を付けて、1本でも多くの木を救おうと努力しながら、まるで自分が1人でも多くのユダヤ人を救おうと尽力した杉原千畝になったように感じられたそうです。
東京に残された緑地をどう残していくか、玉川上水の緑地をこのままの形で子供達に引き継ぐ責任が私達にはあると、高槻先生はおっしゃいます。玉川上水には希少な動植物はいませんが、当たり前と思い気を配らないうちに居なくなってしまったメダカやスズメを例に挙げ、希少だから守ると言う姿勢では環境は守れないともおっしゃっていました。
最後は、アメリカの生物多様性の研究者Edword O.Wilsonの「人間の便利さ豊かさのためなら何をしてもよいという考えはいい加減やめよう」と言う言葉で講座は終わりました。
高槻先生が描かれた草花の絵葉書。 |
今回私の中で印象的だったのは、上空から見下ろした東京都の中の玉川上水です。灰色の建築群の中に細く繋がる緑の線。
それは各時代の人々の思いを受けて変化し続け、その将来は今現在を生きる私達の手の中に確かにあるのだと、ずっしりとした責任を感じました。
そして玉川上水は繋がっているのだと言う当たり前過ぎる事実。私達は日本を都道府県に分け、更に市町村に分けて区別しています。しかし実際は、自然(世界)は途切れる事無くゆるやかに繋がっています。玉川上水の一部の問題は玉川上水全体の問題であり、東京都の問題であり、日本の問題であり、もっとズームアウトすれば世界の問題でもあると言えるのです。
全ては繋がっているのだと言う俯瞰した視点の元、玉川上水全体のビジョンを描き共有する重要性を心に留めておきたいと思いました。 (はけ文会員・鈴木綾)
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