2016年11月24日木曜日

講座「はけの野鳥が教えてくれたこと」(報告)

市民がつくる自主講座
まもりたい!はけと野川の自然
第二回「はけの野鳥が教えてくれること」

レポート山田智佳子(小金井市緑町)

豊かな自然が残されたはけ周辺には、多種多様な生き物とそれを餌にする多くの野鳥が生息しています。くちばしの形状から餌になるものや巣材など周辺の環境を知ることができる等、野鳥からのメッセージをもとに、はけの環境問題を語ります。

講師:鈴木浩克さん(野鳥観察家)
10歳より野鳥観察をはじめ、16歳で野鳥の鳴きまねコンテストで日本一になる。野鳥の魅力と自然の大切さを多くの人に知ってほしいと小学生対象の観察会の講師も務める。都市計画道路にも詳しい。

1113日(日)
家族で「はけの野鳥が教えてくれること」に参加しました。保育士さんが子どもたちを預かってくれるという、主婦には非常にありがたい特典つきでした。以前、武蔵野公園のバーベキュー広場で大きなキツツキ系の鳥を見かけて以来(アオゲラ?)、野鳥のことを知ったらもっと野外活動が楽しくなるだろうという期待があり、参加しました。

鳴きまね実演中の鈴木さん。
講師の鈴木浩克さんは、野鳥の鳴きまねコンテストの元チャンピオン。日本一の鳴きまねを楽しみにしていたのですが、講演になんと15分も遅刻してしまい、ほとんど聞き逃してしまいました…。痛恨の極みでしたが、かろうじて鈴虫の鳴きまねだけは拝聴しました。ほんとうに本物そっくりで、発声を自在に操る技術と工夫には驚きました。

鈴木さんは5年ほど前から野鳥の声の収録に力を入れているそうで、ICレコーダーを森に一週間ぐらい放置して、野生のオオコノハズクの声の収録に成功したそうです。オオコノハズクの声は小さく控えめで、図鑑にはバラバラな鳴き声が記載されていたそうなのですが、鈴木さんが井の頭動物園の飼育オオコノハズクを観察し、声を確認できたことで、初めての学術的証明になったそうです。すごい快挙をとても謙虚に語ってくださいました。


オオコノハズクの幼鳥(撮影・鈴木浩克)

講演の本編では、野川とはけ周辺に生息する野鳥の驚きの生態や芸術的な巣作りを鈴木さんの写真を交えて紹介していただきました。印象的だったのは、くちばしの形がその鳥の捕食の特徴を物語っているということ。ピンセット型のくちばしを持つヤマガラ、ツグミ、ヒヨドリなどは、細かい作業が得意で主に木の実や虫をついばむのに対し、イカルのようにペンチ型の分厚く短いくちばしを持つ鳥は固い木の実を好んで食べるそうです。最強のくちばしを持つのは、雑食で頭がよく、タッパーさえこじ開けてしまうハシブトガラス。細かい作業もできるし、力がある。実際、鈴木さんのお写真を拝見すると、磨き上げられたステンレスの道具のようで、カラスを見る目がちょっと変わりました。


トカゲの尻尾をくわえたモズ(撮影・鈴木浩克)

食べ物との関係を考えると、鳥の観察がより楽しくなるそうです。例えば、小金井市周辺では冬場に割り合い多く見かけられるツグミも、秋は木の実を主食とするため木々の梢で暮らしますが、冬になると地面に降りてきて、春にはミミズを食べるそうです。そのツグミのミミズ捕り、最近の研究で明らかになったのは、音によって地中のミミズを察知して捕食しているということ。ごくありふれた鳥でもすごい能力を持っている、と鈴木さんはおっしゃいます。ちなみに、ツグミのミミズ取りは3月頃くじら山のふもとや遊水池周辺のあちこちで盛んに見られるそうです。

マヒワ(撮影・鈴木浩克)
人間には「雑草」とひとくくりに疎まれ、抜かれてしまう野草も、実は鳥の生存に欠かせないのだそう。ホオジロなどの太くて短いくちばしを持つ野鳥は主に「雑草」に分類される草の種子を食べています。人間にはなんのメリットもないからといってやみくもに「雑草」を伐採してしまうと、こういう野鳥から餌を奪うことになってしまいます。さらに、枯れ木や朽ちかけた老木も、コガラやアオバズクなどの野鳥にとっては大切な棲み処となるそうです。都市公園などではことさら枯れ木、枯れ枝を危険視して切り落としてしまいますが、鈴木さんは可能な限り残してほしいとおっしゃいました。人と自然との関係を改めて考え直させられる考察でした。

野鳥観察のエチケットについても話してくださいました。ひとつは、巣に近づきすぎないこと。繁殖を阻害しないためには、50メートル以上は離れて観察することだそうです。もうひとつは、不用意に鳴きまねをして呼ばないということでしたが、これは鈴木さんのようなプロの鳴きまね職人ゆえの注意点かもしれません。

ツミ(撮影・鈴木浩克)
鈴木さんが野鳥観察を始めた時期は高度成長期と重なり、コンクリートジャングルと化した街中から棲み処を失った鳥たちが姿を消していったそうです。が、近年、カワセミ、ツミ、オオタカ、ハクセキレイ、エナガ、コゲラ、モズ、ハシボソガラスなど、以前は見られることのなかった野鳥が街中にどんどん進出してきているそうです。その理由は東京の自然が豊かになったからではなく、むしろ鳥たちのほうが都市適応してきたからだと鈴木さんは説明してくださり、驚きました。鳥たちの生態自体が変わってきているのです。それは、鳥たちの中に「勇気あるハミ出し行動」を取る個体がいて、結果的に生息域を広げているからだそうです。従来川べりの赤土を掘って巣作りをしていたカワセミが、河川の護岸工事によって繁殖する場所を奪われどんどん少なくなっていったそうですが、ある日コンクリートの排水口を利用して巣作りに成功し、護岸工事された都内の川でも繁殖できるようになって増えてきたそうです。いかに「勇気あるハミ出し行動」が種の保存に重要であるかが、よくわかりました。「自然」とはいかに流動的で、常に進化しているかを改めて知りました。

ハシボソガラス(撮影・鈴木浩克)
かつては観察できなかった野鳥が再び街中に棲み処を求めている今の状況を踏まえ、私たちはどうやったら野鳥のお手伝いをできるのでしょうか。そのヒントに、「野川自然の会」が運営しているどじょう池脇の「とんぼたんぼ」があります。市民の手で里山環境が再生されたからこそ、他の公園では見られないタシギという珍しい鳥が飛来したそうです。

野川の周辺には連続した緑地帯が残っており、鳥たちの餌となる虫や草や木が豊かな生態系を支えています。最近は食物連鎖の頂点にいるツミやオオタカなどの猛禽類も生息しており、その生態系の豊さを象徴しています。この貴重な環境を守り、育んでいくことが、鳥たちのためだけではなく最終的に人間のためにもなると、鈴木さんは明言されています。

自然を壊さないと街は発展できないのでしょうか?そうではなく、経済的な発展も、自然の保護も、二者択一ではなく共生できる目標だと鈴木さんはおっしゃいました。

次世代になにを残すのか。道路を残すのか、それともオオタカが飛翔する緑深き野川か。道路をつくるために木を切ってしまうのは一瞬ですが、その木がまた生えてくるには何十年とかかるのです。


今後、鳥たちのさらなる「勇気あるハミ出し行動」によって野川とはけ周辺が魅力的な野鳥観察のフィールドであり続けるために、私たち人間も「勇気あるハミ出し行動」へ舵を切り、経済至上主義から逸脱することが求められていると感じました。